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粉粒体計測の基礎と分類 同志社大学 森 康維
● 粉粒体計測の基礎
粉粒体とは、一般に固体物質の集合体であり、その特徴は個々の固体物質(粒子)の大きさが数nmから数cmと人間の大きさより遙かに小さいことにある。この特徴のため、粒子が液体のように流動化し、取り扱いが容易になることの他に、粒子物質の混合、成形、複合化が可能となる。また粒子の体積に比較して表面積が増える、いわゆる比表面積の増加により、粒子表面反応や粒子溶解が容易に生じる反面、粒子同士が固結するなどの現象が現れ、粉粒体の特徴が失われることもある。 粉粒体のこのような特徴や現象を評価するための計測技術として、先ずは粉粒体を構成する個々の粒子の形態的特徴である大きさと形状の測定が重要となる。次に個々の粒子の性質である粒子物性と粒子の表面構造に関する特性評価がある。さらに粒子が集合し、粉粒体となった全体としての特性計測があり、乾燥状態の粉粒体の物性評価と、溶液、特に水溶液に粒子が分散した粒子懸濁液や、粒子が高濃度に存在するスラリーの特性評価に分類することができる。 粉粒体の特性評価に必要とする粉粒体は少量で済むことがほとんどであり、評価したい粉粒体からいかに少量をサンプリングするかが重要な技術となる。この目的のために特化された装置や技術が必要となる。 その他に、粉体の爆発性の評価や、粉粒体が空気輸送などで移動するときの空間濃度や移動速度の計測も粉体プロセスを構築する上では重要な情報となる。また、計測に適した状態に粉体を超音波や空気圧などで分散させる技術・装置も、粒子径や粒子形状測定には重要となる。 以下では、上述した計測技術とそれに関連する技術について、その概要を紹介する。 1. 粒⼦径・粒子形状の計測 粒子の大きさを測定し、粒子が属する粉粒体の大きさの分布を計測する粒子径(分布)計測装置には、大きく分けて、粒子を溶液に分散させた分散液の状態(湿式)で測定する方式と、粉粒体を気流中に分散させた状態、あるいはエアロゾル状態(乾式)で測定する方式がある。代表的な測定法を表1に示す。一般に粒子は完全な球形ではないので、粒子の大きさをどのように定義するかはそれぞれの測定法で異なる。すなわち、計測装置で測定された幾何量や粒子の運動速度、光学情報から、それらと等価な幾何量や物理量を与える球の直径に換算した長さを粒子径と定義し、粒子の代表径あるいは相当径と呼ぶ。また同じ大きさの粒子が、何個あるかを数える方法と、どれだけの質量があるかを数える方法があり、前者を個数基準、後者を質量(体積)基準と呼ぶ。したがって表1のように多くの粒子径分布測定法が存在するが、分布基準と代表径が一致していない場合、他の粒子径分布測定法の測定結果と比較するときには充分な注意を払う必要がある。 比較的粒子径が大きく、測定に使用できる粉粒体が多量に存在するときには、ふるいを用いた方法が有効である。製造プロセスにふるい分け操作が存在するときには、製造粉粒体の品質に直結した粒子径分布を与えることが可能となる。また粒子形状をも評価したいときには、顕微鏡などの画像解析の可能な装置を利用することになる。近年ではCCDカメラとPCの高性能化のため、他の測定方法(電気的検知帯法やレーザ回折・散乱法など)と組み合わせて、測定している粉粒体の分散状態の評価や形状測定を粒子径測定と同時に行う装置も上市されている。 なお、多くの粒子径分布測定法にはJIS規格やISO規格が存在し、測定法の原理、使用上の注意点、測定結果の不確かさ評価方法などを記載しており、粒子径分布計測装置を利用されるときには一読されることを勧める。 粉粒体を構成する個々の粒子の物性値を測定する装置も数多く販売されている。特に重要な粒子密度を評価する計測装置は、粉体プロセスの設計・運転に必要不可欠な装置といえる。しかしながら、粒子はその内部に空洞が存在することや、表面に細孔が存在し、測定によってはその存在を認識できない場合がある。したがって、物質の密度とは異なり、測定方法によっては値が一致しないこともある。このようなことから、粒子密度は粒子見掛け密度と呼ぶこともある。なお、粉粒体を容器に入れたときの密度はかさ密度と呼ばれ、粉粒体の充填特性と密接な関係があり、本解説では粉粒体特性に分類している。 粒子の物理的特性として、 粒子の化学的特性評価として、粒子を構成する物質の組成同定、粒子表面の官能基同定や、粒子の結晶性・結晶構造の同定が挙げられる。化学的特性も個々の粒子の特性を評価する場合もあるが、概して粉粒体の特性として評価する方が多い。 3. 粒子表面構造の計測 粉粒体の特徴として表面積の大きいことが挙げられ、その量(比表面積)を評価することは重要である。比表面積の測定には窒素分子の吸着量から計算するのが一般的ではあるが、粒子表面組成と吸着分子との相互作用(すなわち吸着の強さ)が問題になることがある。このため、相互作用の少ない希ガスを吸着物質として用いることもある。比表面積測定結果に表面構造モデルを適用することで、粉粒体表面の細孔径分布を推定することが可能となる。 特定の物質の吸着量を測定することが重要となることもある。特に水は大気中に常に存在し、水の吸着特性が粉粒体の流動状態に大きく影響を与えることが知られている。大気中に放置された粉粒体に吸着した水の量を測定する装置は、水分計として上市されている。また、粉粒体層表面に液滴を滴下し、その液滴の接触角の測定や、液体の浸透速度の測定からぬれ特性を評価する計測法もある。 4. 粉粒体特性(乾燥状態) 大気中あるいは乾燥状態で保管している粉粒体の性質は、最も粉粒体の特徴を表す特性で、粉体プロセス中での粉粒体の挙動と密接に関連している。例えば貯槽などで粉粒体の閉塞現象に直結する特性として、粉体の流動特性や安息角が挙げられる。充填特性(かさ密度)も重要となると考えられる。特に振動やタッピングで粉体が詰まった状態の密度(タップかさ密度)は、粉粒体の閉塞現象に関係すると考えられる。粉粒体が堆積した状態からどの程度の力を加えると崩壊するかを知る剪断力特性や付着力の計測も重要となる。粉粒体による装置や容器壁の摩擦特性や摩耗特性も装置材料の選定や安全性の観点から知る必要がある。 5. 粒子懸濁液特性・スラリー特性 粒子が溶液に分散した状態を粒子懸濁液と呼び、特に粒子濃度が高くなった状態をスラリーと呼ぶ。このような状態の粉粒体の特性を表現する代表的な特性にゼータ電位がある。粒子を溶液に分散した状態を維持できるか、あるいは凝集やクリーミングを起こし、粒子濃度の高い懸濁液と粒子濃度の薄い懸濁液に分離するかを図る指標として用いられる。ゼータ電位計測装置の多くは、湿式の粒子径分布測定と同時に、あるいは同じ装置で測定可能な装置として市販されている。また遠心力などを用いて、短時間でかつ直接的に凝集・分散特性を評価する計測器も用意されている。 懸濁液の粘度と弾性を調べるレオロジー特性(粘弾性特性)はスラリーの動的挙動を知る上で重要なスラリー特性である。 6. サンプリング・縮分 粉粒体計測に必要な粉粒体の量は、評価したい現実に存在する粉粒体量と比較して、極わずかであることが多く、取り出した粉粒体が実在粉粒体の代表となるように採取する必要があり、この採取操作をサンプリングと呼ぶ。サンプリングは流動状態の粉粒体から採取することが推奨される。堆積した粉粒体から代表試料をサンプリングすることは意外に難しい。粒子径分布のある粉粒体を容器などに投入・堆積させると、粒子偏折が起きやすいためである。すなわち、粒子偏折した堆積物では、いくつかの異なる場所から粉粒体を採取し、それらを混合して代表試料とする必要があるが、混合した試料が代表試料の要件を満たしているかを確認することは難しい。 得られた代表試料量が測定用試料量より多い場合、その中から必要量を分取する必要がある。この操作を縮分と呼び、円すい四分法、あるいは二分割器や回転縮分器などが用いられる。このときも粒子偏折が起きないように測定用試料を得ることが大切である。 大気中に粒子が分散したエアロゾルでは、等速吸引が可能な装置で吸引して代表試料とすることが多い。 7. その他 粉粒体が凝集した状態で粒子径測定を行うと正しい結果が得られないため、一般には、分散器と呼ばれる装置で粉粒体を分散させる前処理を実施することが多い。湿式の粒子径測定では、分散剤(界面活性剤)の使用と共に、超音波分散機や超音波ホモジナイザーで分散することが有効である。 乾式の分散では完全な分散状態を得ることは難しく、むしろ粉体プロセス内の状態を再現した分散状態で粒子径測定をする方が適切であり、インライン計測器を用いることが多い。このような装置では、粉粒体が空気輸送されるときの粒子濃度や粒子移動速度を測定する機器としても活用されるときがある。 粉粒体の爆発性を調べる装置もある。粉粒体が500 μm以下になると、火花や静電気などで引火・爆発を起こすことがある。マグネシウム粉、アルミニウム粉、石炭はもとより、小麦粉のような穀物類、砂糖やコルク粉でも爆発する。その爆発条件を調べる爆発性試験装置も粉粒体の特性評価装置であり、粉体プロセスの火災や爆発対策に必要不可欠な情報となる。 |